1996年7月8日、Warner-Lambert有限責任公司(Warner-Lambert Company LLC)(ランバート公司と略称)は、名称が「結晶[R-(R*,R*)]-2-(4-フッ素フェニル)- β,δ-二水酸基-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-[(ベンゼンアミノ) カルボニル]-1H-ピロール-1-エナント酸半分カルシウム塩」である特許を出願し、2002年7月10日に、特許番号96195564.3で授権された。
本件特許請求項1のテーマは1-8モルの水を含むⅠ型の結晶Atorvastatin水化物で、特徴部分はX―放射線の粉末回折図(XPRD)で限定されている。本件特許に対し、北京嘉林薬業股分有限公司(嘉林公司と略称)、張楚はそれぞれ国家知識産権局特許復審委員会(特許復審委員会と略称)に無効宣告を請求し、特許復審委員会が審理を併合した後、2009年6月17日に第13582号無効宣言請求審査決定(第13582号決定と略称)を下し、本件特許は特許法第26条第3項の規定を満たさないとして、本件特許権をすべて無効とした。
主要な無効理由は以下である。1.明細書にはⅠ型結晶Atorvastatin水化物の中に確かに1-8モル(最適3モル)の水が含まれていることを証明するいかなる定性的或いは定量的なデータもなく、その上、その調製方法の工程、及び製品結晶型の表現に用いるXPRDデータとスペクトルパターンからも、その製品に水含有量が1-8モル(或いは3モル)であることを明確に導くことができない。したがって、当業者は明細書の開示内容から請求項で保護された製品を確認することができない。2.当業者は本件明細書の内容によってどのように本件特許保護対象の1-8モルの水(最適3モル)含有のⅠ型結晶Atorvastatin水化物を調製するのかを明確に理解することができない。
ランバート公司はこれを不服とし、行政訴訟を提起した。北京市第一中級人民法院は第13582号決定を維持した。ランベルト公司は上訴し、北京市高級人民法院は第二審において、次の通り判断した。本発明の解決しようとする技術課題はAtorvastatinを得るための結晶方式で、具体的にはI型結晶Atorvastatinで、「無定形Atorvastatinが大規模生産での濾過と乾燥に適しない」という技術課題の克服に用いる。特許覆審委員会は本発明の解決しようとする技術課題を確定しておらず、どのようなパラメーターが「解決しようとする技術課題に関する化学物理的性質のパラメーター」であるかも明確にしていない。そのため、特許復審委員会は本発明の解決しようとする技術課題について全体的に考慮していないにもかかわらず、本件特許が特許法第26条第3項に定める関連規定を満たさないという認定を下したのは明らかに不当である。
北京市高級人民法院は、第一審判決及び第13582号決定を取り消し、特許復審委員会に改めて決定するよう判決した。特許復審委員会、嘉林公司はこれを不服とし、最高人民法院に再審を申請した。最高人民法院は本件を審査し、そして2015年4月16日に、第二審判決を取り消し、第一審判決を維持するという判決を下した。
コメント:
本件は化学分野の製品発明における明細書の開示不十分の判断に関連しており、法律の適用の仕方が典型的であるだけでなく、技術課題も複雑で、さらにこの特許権自身が巨大な経済価値があるため、その審理は国内外の注目を集めていた。
最高人民法院は、化学製品発明の明細書には化学製品の確認、調製と用途を記載しなければならないと認めた。具体的には、発明が化合物である場合は、明細書には、当業者がこの化合物を確認できるように、この化合物の化学構造、及び発明の解決しようとする技術課題と関係する化学、物理性能のパラメーターを説明すべきである。当業者が実施できるように、明細書には少なくとも一種類の調製方法を公開しなければならない。化学製品の確認と調製の角度から、本件特許の明細書は特許法第26条第3項の規定を満たさない。そのほか、本件は発明が解決しようとする技術課題の確定と明細書の十分な開示の関係、実験で得た証拠を出願後に補充提出して明細書の十分な開示の立証に用いるなどの法律上の問題を明確した。本件は法律基準の確立、明細書作成の指導などの面で重大な法律的意義および現実的意義を有する。
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